本研究では、典型的な螺旋高分子が示すキラリティーの認識を伴った秩序化(結晶化)過程を計算科学的に明らかにすること、及びそのための新たな計算スキームを開発すること目指して研究を開始した。らせん構造を形成する高分子の秩序化では、分子内と分子間の秩序化が協同的に進行する。しかし、単純な線形高分子の場合と比べて、らせん高分子では前者の過程が著しく緩慢で、全体の結晶化速度を非常に遅くしている。 そこで先ず、分子内自由度の秩序化は完成した(分子鎖を秩序らせん構造をもった剛体)と仮定し、分子間秩序の形成過程をモンテカルロ法を用いて検討を行った。実験的に観測されるキラル相(β相)やラセミック相(α相)の結晶形成過程が明瞭に観測出来ることを見出した。また、高温からの急速な冷却過程では、特徴的なメソフェーズが生成することも確認した。 他方、分子内自由度も考慮した一般的な条件下での三次元秩序構造形成の直接観察は極めて困難である。今年度は以下のような特殊な条件下での結晶化過程の研究を行った。(i)分子鎖のキラリティーを拘束した場合;このときは非常に緩慢ではあるが、キラルなβ相結晶の融解・結晶化過程を観測出来ることを見出した。(ii)分子鎖を高度に分子配向させた場合;配向非晶質状態からの繊維形成に対応するこの過程は単純な直線状の高分子では速い結晶化を観測することが出来る。一般的な螺旋高分子ではどのような振舞いを示すのか、現在計算を進めているところである。
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