研究課題/領域番号 |
20550190
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
山本 隆 山口大学, 大学院・理工学研究科, 教授 (00127797)
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研究分担者 |
浦上 直人 山口大学, 大学院・理工学研究科, 講師 (50314795)
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キーワード | 高分子 / らせん構造 / 分子認識 / 構造形成 / コンピュータ・シミュレーション / 結晶成長 |
研究概要 |
本研究は、複雑な側鎖を有する一般的な螺旋高分子の結晶化も分子動力学、特にそれらが示すキラリティーの認識を伴った秩序化過程を、計算科学的に明らかにすることを目指して研究を行っている。高度な分子内構造を有する螺旋高分子の秩序化においては、分子内構造形成と分子間秩序化(結晶化)が協同的に進行する。しかし、単純な線形高分子の場合と比べて、それらの動的過程は著しく緩慢で、結晶化速度を非常に遅くしている。我々は、典型的な螺旋構造を示すモデル高分子として、アイソタクティックポリプロピレン(iPP)をターゲットにして研究を開始した。先ず分子内自由度を秩序構造に固定化したモデル(分子鎖を秩序らせん構造をもった剛体と仮定)を用いてし、それらの三次元結晶化過程をモンテカルロ法を用いて再現することに成功した。これらの計算は、実験的に観測される様々な結晶多形(キラル相β相やラセミック相α相、更には準安定な中間相であるスメクティック相)を観測することができ、それらの特徴的な構造を明らかにした。 他方、分子内自由度も考慮した一般的な条件下での三次元秩序構造形成の直接観察は極めて困難である。従来の研究から、以下の様な特殊な条件下での結晶化では、比較的速い結晶化が観測されることを見出した;(i)分子鎖のキラリティーを拘束した場合、非常に緩慢ではあるが、キラルなβ相結晶の融解・結晶化過程を観測出来る(ii)分子鎖を高度に分子配向させた場合には、配向非晶質状態からの繊維形成に対応するこの過程は単純な直線状の高分子では速い結晶化を観測することが可能性が示唆される。 H21年度の研究では、後者の条件での結晶化を集中的に研究を行った。すなわち、先ずiPPの非晶質液体構造を作成し、温度・圧力制御の下で一軸伸長を行い、高度に配向した非晶質試料を作成した。その後、この状態を様々な温度に保持し結晶秩序構造の発生を観測した。非常に緩慢ではあるが、およそ100ns程度の熱処理により、明瞭な結晶(iPPの繊維構造)の出現を観測した。出現した構造の研究から、その結晶構造は、いわゆるスメクティック相と呼ばれる準安定相であることが示唆された。この事実は、今回の計算機実験で実現されている結晶化が、通常の実験室レベルでの結晶化と比べれば極めて高速であることを考えれば非常に自然な結果であることが分かる。現在は、この様な秩序の出現過程の分子ダイナミクスを詳細に究明している。
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