本研究では、光配向性の架橋剤を用い、光配向状態で架橋反応を起こし、分子配向性を付与した高分子ゲルを作製することを目的としている。予備検討で用いたアゾベンゼンの両末端に光二量化性のシンナモイル基を有する光配向性架橋剤は、プレポリマーや溶媒への溶解性が低く、製膜時に析出する問題があった。そこで、本年度は溶解性の向上を目的として、分子設計・合成を行った。シンナモイル基を有するアゾベンゼンの溶解性が低いのは、疎水性と高い平面性に基づくπスタッキングによる結晶性のためと考えた。そこで、平面性を乱し、非対称となるような構造を分子計算により推測し、ベンゼン環の側鎖にメチル基またはメトキシ基を有するアゾベンゼン架橋剤の合成を試みた。いくつかの合成方法を試したが、メチル基型はシンナモイル基の導入反応が進行しづらく、合成を断念した。また、メトキシ型の合成は達成したが、溶解性に顕著な向上は認められず、さらに疎水性が高いために親水性高分子ゲルの架橋剤としては適していない事、非対称であるために、複雑な位置異性体が生じ、解析が困難になる事が明らかとなった。 一方、アゾベンゼンの両末端に重合性のビニル基を有する光配向性架橋剤を合成し、反応性プレポリマーとの光重合を試みた。その結果、得られた高分子ゲルに配向構造は確認できず、ラジカル重合では配向性を保ったまま重合させる事は困難である事が明らかとなった。 以上の結果より、今後はより極性の高い官能基を導入し、親水性の光二量化型光配向性架橋剤を新たに設計・合成し、検討を行う事とした。
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