我々は、環境問題への意識の高まりとともに注目を集めている生分解ポリマーの結晶構造中に、弱い水素結合(C-H…O=C)が存在することを見出した。本研究では、このC-H…O=C水素結合の役割を明らかにするために、放射光を利用した時間分解小角/広角X線散乱(SAXS/WAXD)-DSC同時測定、赤外分光法、実験室レベルでのX線回折測定、偏光顕微鏡観察等を行い、官能基レベルから分子全体の構造にわたるスケールで、温度変化に伴うらせん構造の変化やらせん分子間に存在する弱い水素結合の熱的挙動について調べている。 まず、水素結合部位である側鎖の長さを変えることでC-H…O=C水素結合の強さを変化させ、メソ構造形成過程および結晶構造の安定化とC-H…O=C水素結合との関係を明らかにすることを試みた。PHBの結晶構造中における水素結合部位は側鎖であるメチル基のH原子とカルボニル基のO原子である。そこで、この側鎖の長さが炭素一つ分だけ異なるPHVについて赤外分光法、X線回折測定(実験室レベル)の結果を併せて解析することで、分子間水素結合の距離や数の違いが与える結合エネルギーやメソ構造形成過程の違いについて調べた。赤外分光法より、温度変化に伴う官能基レベル(ミクロスコピック)での分子内・分子間相互作用の変化と結晶構造の熱挙動を観測し、PHBではC=O基とCH_3基が水素結合を形成するのに対し、PHVではC=O基とCH_2基との間で水素結合を形成していることがわかった。また、報告されている結晶構造からC原子とH原子の距離を見積もったところ、PHBとPHVでは水素結合の部位が異なる可能性が示唆された。さらに、X線回折法より格子定数並びに結晶構造の熱挙動を観測し、PHBとPHVでは水素結合の部位が異なり、その水素結合の方向に分子鎖の折りたたみを形成している結果が得られた。
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