本研究では、タンパク質マトリクスを活用して、新たな多核金属中心を有する高機能生体触媒の創製を目指している。高機能タンパク質を開発するために、第一配位圏の合理的な分子設計に基づいた変異を導入したタンパク質の機能解析を行った。 本年度は、照準としたタンパク質マトリクスである鉄二核中心を有するヘムエリスリンに類似のDcrH-Hrタンパク質の第一配位圏、第二配位圏のアミノ酸に変異導入を行い、これらの変異体の発現調製、さらに機能解析を行った。タンパク質の構造的な特徴である酸素結合部位の空孔を利用するとともに、特にイソロイシン180番をグルタミン酸に点変位したタンパク質は、野生体と比較した場合に、外部配位子であるアジドとの結合挙動が大きく異なることを見いだした。導入したグルタミン酸の影響を明らかにするために、pHを変えた条件での分光測定を行ったところ、側鎖カルボン酸のプロトン解離が、反応性に大きく寄与することが分かった。さらに、外部配位子の非存在下、およびアジドの結合状態での共鳴ラマン分光の実験の結果から、側鎖カルボン酸が鉄中心に配位している、あるいは、配位水酸基に対して水素結合を形成していることが示唆された。また、このI190E変異体の酸化反応活性について調べたところ、過酸化水素とグアイアコールの添加にした際に野生体ででは反応が進行しないのに対して、I190Eの鉄二核とは僅かに酸化反応が進行した。本年度の成果として酸素結合能を持つ鉄二核中心を、酸化反応を触媒するコアへと変換に鍵となる残基を見いだすことに成功した。
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