高温超伝導バルク体にパルス磁場を印加してテスラ級の超強力磁石を実現するために、本研究ではパルス磁場印加時の量子化磁束ダイナミクスを明らかにすることを目的としている。これまではバルク表面の温度変化のみをモニタしていた。今回直径45mm、厚さ15mmのSm系超伝導バルクに直径1mmの微小貫通孔を複数開け、そこにクロメルーコンスタンタン熱電対(直径76μm)を複数配置した。このセッティングによりパルス磁場印加時のバルク厚さ方向や内部半径方向の温度変化をモニタすることが可能になった。まず、バルク周辺部の細孔内で表面、中央、底面の温度変化を測定した。その結果、厚さ方向に温度勾配が生じることが分かった。これは、パルス磁場を印加した数ミリ秒後に量子化磁束がバルク端面のみならず表面からも侵入することを示唆する重要な結果である。また、半径方向の温度変化からも量子化磁束がバルク表面から侵入していることが分かった。一方、バルク中央部で周辺部と同様の温度モニタをしたところ、中心部の温度上昇は上部、中央、底面でほぼ断熱的に起こることや厚さ方向の温度勾配がほとんど生じないことが明らかとなった。通常、量子化磁束はバルク端面からのみ侵入すると考えられている。パルス磁場で発生させた量子化磁束はマイスナー効果でバルクを回り込んでいる。量子化磁束密度が局所的に高い箇所が表面付近に出現し表面からの侵入が起こったと推測される。今回、パルス磁場印加時のバルクの温度変化を精密観測することにより量子化磁束が表面から侵入するという新たな知見が得られた。
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