研究概要 |
X線回折による結晶構造解析の手法を格段に進歩させ,強誘電体の相転移や誘電特性を支配している「価電子」の結晶内での空間分布を可視化する実験手法の開発を行うことが本研究の目的である.そのために,実験では放射光を用いた粉末X線回折実験と単結晶X線回折実験,解析では最大エントロピー法と第一原理電子構造計算のそれぞれがもつアドバンテージを有機的に結合させた実験・解析システムの構築を行う.この手法が確立されれば,理論計算ではなく,実験により得られた実際の精密な価電子密度分布をもとに,強誘電体に限らず様々な複雑な結晶構造をもつ材料の物性を電子論的に議論するという新たな研究分野が開拓できると期待している. 最終年度である今年度では,鉛系の強誘電体とビスマス系の強誘電体の電子密度解析をSPring-8で測定したデータを用いて行った.チタン酸鉛について,d=0.3Åの分解能の構造因子を得ることができ,このデータからチタン原子の異方的な共有結合に起因するイオン分極を可視化することができた.一方,BaTi_2O_5やLuFeO_3の準安定相の特異な結合状態を可視化し,成果としてまとめた.また,この研究と関連して非常に精密な構造因子を測定するために,SPring-8 BL02B1単結晶BLに大型湾曲IPカメラを導入し,その成果を投稿論文にまとめた.本研究課題で取り組んできた価電子に着目した電素密度研究に対して,様々な国際会議や学会から招待講演を依頼された.また,講演に係わる賞をいくつか受賞した.
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