これまでの半導体ナノ粒子間のエネルギー移動に関する研究は、そのメカニズムとして有機分子間のエネルギー移動機構として汎用されているフェルスターモデルを無条件に前提にしている。これを実験的に検証するには、ナノ粒子間の距離を高精度で制御した試料構造を作製する必要がある。本研究において、“ドナー"となるサイズの小さなCdSナノ粒子と“アクセプタ"となるサイズの大きなCdSナノ粒子間の層間距離(0.5nm-10nm)を、電解質ポリマーの厚さにより、0.5nmの精度で制御した交互積層膜の作製に成功した。層間距離が0.5nmの交互積層膜における“ドナー"ナノ粒子の発光減衰プロファイルは、“ドナー"ナノ粒子のみを高分子フィルムに分散した試料と比べ、非常に速い減衰を示すことを見出した(高分子フィルム中でのナノ粒子間の平均距離は〜50nmであり、エネルギー移動は全く生じない)。この発光減衰時間の減少は、交互積層膜においてエネルギー移動が生じたことによるものである。さらに、“ドナー"ナノ粒子と“アクセプタ"ナノ粒子間の層間距離を増大させると、発光減衰プロファイルは高分子フィルム試料のプロファイルに漸近していく。すなわち、層間距離によってCdSナノ粒子間のエネルギー移動を制御できることを見出した。さらにエネルギー移動速度の層間距離依存性から、CdSナノ粒子間のエネルギー移動がフェルスターモデルに従うことを、初めて実験的に検証した。
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