生体分子結晶等における湿度や温度に依存した水和構造の変化を、単結晶構造解析により原子レベルで解明するためのシステム開発を目指し、今年度は、湿度・温度の双方を制御した空気を発生する装置を開発し、単結晶X線回折装置に組み込んだ。また、生体分子結晶として核酸の構成単位であるヌクレオチドを用いて装置の動作検証を行うとともに、それらの湿度に依存した構造転移を以下のように新たに明らかにした。 ウリジン5'-一リン酸のナトリウム塩(Na_2UMP)は、室温(25℃)下、相対湿度50%付近では7水和物として存在し斜方晶系(構造A)であるが、相対湿度を30%程度まで下げると単位格子の一軸が2倍になるとともに単斜晶系(構造B)へと変化した。さらに相対湿度を15%程度まで下げると回折データに変化(構造C)が現れた。構造Aは既に構造解析がなされているが、構造Bは本研究で新たに決定することができた。構造Cは結晶性が悪く、現段階で構造決定には至っていない。 イノシン5'-一リン酸のカルシウム塩(CaIMP)は、室温下、相対湿度30%付近では報告されている6.5水和物であり、相対湿度を0%まで下げると回折データに変化が現れることが明らかになったが、単結晶状態が保持されず構造決定には至っていない。 アデノシン5'-二リン酸のカリウム塩(KADP)は、室温下、相対湿度30%付近では報告されている2水和物であったが、相対湿度を0%まで下げると単結晶状態を維持して無水物に変化した。その無水物について結晶構造を明らかにした。
|