報告者は、生体分子結晶等における湿度や温度に依存した水和構造の変化を、単結晶構造解析により原子レベルで解明するシステムの開発を目指している。温度、湿度の目標設定範囲は、温度:5~80℃、相対湿度:0~100%である。今年度は、X線回折装置に組み込んだシステムの室温(25℃)下での動作検証を行い、生体分子結晶としてタンパク質の一種であるタウマチンの正方晶を用いて、相対湿度2~95%での構造変化の追跡に成功した。 タウマチンは、分子量約22000、アミノ酸207残基からなり、結晶化条件により正方晶、六方晶、斜方晶、単斜晶が得られ、正方晶は湿度依存性が示唆されている。室温(25℃)下、相対湿度(rh)を95%から徐々に下げて格子定数の変化を追跡したところ、60%rh付近でa軸長が約59Åから8%程度減少(c軸長は約152から1%程度増加)するという大きな変化が見られ、その後も40%rh付近まで徐々にa軸長のみが減少することを見出した。40%rh以下では結晶性の低下により格子定数の決定には至らなかった。また、結晶の含水量は95%rhで59%程度と見積もられ、60%rhでは約14%減少、40%rhではさらに約6%減少したと推定された。既に報告されている相転移前の結晶構造では、c軸方向にタンパク質分子が蜜に配列しているのに対し、a軸方向にはタンパク質分子間に結晶水の領域が見られており、本研究で見出した格子定数の変化を解釈可能であることが分かった。
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