LSIデバイスの高速化の鍵となる歪シリコンウエハの歪分布と歪量の定量的評価をX線回折を用いて行った。歪分布は位相コントラストイメージングを利用した放射光トポグラフィー法により調べ、局所的な歪量を逆格子マッピングの解析とロッキングカーブの測定から求めた。 今年度は市販のSC-sSOIと呼ばれる30cm径の歪Si-SOIウエーハの2次元歪及び格子傾き分布について詳しく調べた。このウエーハは歪緩和の限界厚さを超える厚さの圧縮歪Si層をSOI上に形成したもので、sSiとSOIの厚さはそれぞれ72nmと144nmである。sSi層は張り合わせ法で作られるので、基板Siと反射を区別することができ、極薄sSi層のトポグラフを得ることができる。まずSPring-8のBL-20B2により、30cmウエーハ全体の歪分布を放射光トポグラフで歪み分布を観察し、酸化濃縮法sSi層(昨年度報告)と同様に約100μm間隔のクロスハッチ状パターンとともに不規則な濃淡分布が見られた。イメージ上の各点について、検出器(CCD)のピクセルの強度を入射角を少し筒変化させて得られるロッキング曲線から、各点のピーク位置、FWHMと積分強度の値を2次元画像化して格子ひずみと結晶面の傾きとに関する分布が得られた。これらの2次元画像のgベクトル依存性を詳しく検討した結果、クロスハッチパターンは格子面傾斜によることが分かり、その大きさは±0.08度であった。一方、4軸回折計を用いた113ブラッグ反射付近の逆格子マッピングから、歪Si層の平均歪率は0.75%と測定され、強度分布より歪みはウエーハ全面で不規則に分布しており、その揺らぎは±0.02%以下であることが分かった。 3年間の研究の結果、30cm径歪Siウエーハの歪分布と歪量を放射光X線回折により測定する手法を確立するという初期の目標は達成した。しかし、市販のウエーハでも結晶性に不均一性が存在することが明らかになり、それがデバイス特性にどのように影響するかについて調べることが今後の研究課題である。
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