有機薄膜トランジスタ(有機TFT)の研究が精力的に行われているが、移動度の低さが最大の問題となっている。有機単結晶トランジスタでは実用デバイスとして十分な移動度が報告されていることから、薄膜であっても、例えばエピタキシャル成長により単結晶的薄膜にできれば移動度向上が期待できる。しかしながら、TFTデバイスでは薄膜成長の下地となるゲート絶縁膜がアモルファスであることが多く、面内配向制御が難しい。応募者らは最近、無機の分野で知られていたグラフォエピタキシー現象が有機分子系でも起こることを見出した。本研究課題では、この有機分子系グラフォエピタキシーに関して、メカニズムを解明し、実デバイスに応用可能な面内配向制御技術にまで高めることを目的とし研究を進めている。本年度は、有機半導体セクシチオフェンをモデル分子として、有機分子系グラフォエピタキシーの特徴を探索した。最大の特徴は、微細加工基板(電子線リソグラフィーで一方向にサブミクロン周期の溝を彫ったもの)の表面が親水性であるか疎水性であるかによって、面内配向方向が異なるというものである。これは、有機分子のグラフォエピタキシーが、溝の壁面を終端する官能基と有機分子との間の相互作用に依存していることを意味し、溝壁面に対してエネルギー的に最も安定な関係をもった結晶面が付着することが有機分子系グラフォエピタキシーの基本メカニズムであることを示唆している。更に本年度は、このメカニズムを分子動力学シミュレーションによって検証することを目指して準備を開始し、セクシチオフェンの結晶構造再現の段階まで到達した。これを更に発展させることにより、壁面と分子の相互作用をシミュレーションする準備を進めている。
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