固体表面科学において絶縁体の表面構造はあまり知られていない。表面構造を解析するプローブは電子線、イオンビームが主に用いられてきた。これらのプローブを用いた場合、絶縁体表面上では電荷が蓄積されること(チャージアップ)が知られている。この効果を補償するためには表面上に蓄積される電荷を打ち消す手法が必要である。例えば、イオンビームを固体表面に入射させながら別途電子線を照射する方法もあるが補償効果は十分とはいえない。そこで今回は電荷を持たない低速原子散乱装置を開発することになった。入射プローブは電気的に中性であるので固体表面での電荷蓄積を考慮することはない。実際にはNe^0原子ビームを生成した。今回は、原子の飛行時間を測定するための計測計時装置が電気回路的に安定して働くように開発を行い特許出願を行った。この装置は、時間分解能が10nsecで4ch同時測定できる機能を要している。制御プログラムに改良を加えハードウエァの遊び時間を従前の1/2以下にすることができた。中性化効率は電荷交換反応を用いているために30-40%程度である。これは電荷交換反応による断面積を考慮して計算される値とよい一致を示している。しかしながら、より効率よく測定を行うために金属表面にイオンビームを一回散乱して試料に照射する方法を検討している。また超高真空チェンバーが、原子ビームラインによる圧力増加を防ぐために作動排気を見直した。まだ開発途中にはあるが、一歩一歩問題を解決し実用化に向けて着実に歩んでいる。
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