半導体の基本素子となるMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)では、半導体と絶縁膜との界面で生じる電荷移動が、絶縁膜や界面での欠陥生成に関与する。前年度は負バイアス温度不安定性(NBTI)を対象に、第一原理計算によりその機構解析を進めたが、平成21年度は、絶縁膜中に形成される、各種欠陥構造について、その電子状態とエネルギ準位について詳細な解析を行った。欠陥に付随するエネルギ準位を精密に評価検討するため、本年度は、SAC-CI(Symmetry Adapted Cluster-Configuration Interaction)法による励起状態の解析を行い、評価した。従来は、欠陥構造に付随する電子状態の軌道エネルギで評価されていたエネルギ準位に比べ、今回の計算では、具体的に励起状態を求めることで、基底状態からの準位位置を直接的なエネルギ数値で評価できるメリットがある。今年度は、主に、絶縁膜中に存在する欠陥について解析を行った。また、対照として、無欠陥な絶縁膜モデルでの励起エネルギ(エネルギギャップに相当)も解析し、実験値との比較を行った。具体的な絶縁膜として、SiO_2並びにHfO_2を選び、酸素欠損構造、酸素欠損構造生成に伴い発生するLLDS(Lattice Largely Distorted Structure)について計算した。この結果、無欠損SiO_2では、9.9eV、無欠損HfO_2では5.8eVのギャップエネルギが得られた。実験値と比較して妥当である。また、酸素欠損に付随するエネルギ準位は、LLDS構造に付随したエネルギ準位に比べ、0.5eV~0.6eV高く、伝導帯に近い位置にあることが判明した。また、基底関数、解析モデルのサイズ効果等についても評価を行った。
|