DNAの磁化率に違いによる新しい磁気分離法の可能性を探ることを目的とし、異方的反磁性磁化率を有する物質の磁場による配向を計算機シミュレーションを行い、実験的にDNA電気泳動に対するローレンツ力効果とファラデー力効果を調査し、以下の知見を得た。 (1)回転磁場中で異方的磁化率をもつ弱磁性粒子の配向挙動をする様子をについて計算機シミュレーションした。磁気エネルギーと室温の比に関連する量αが15以上であれば、角周波数ωが3以上の回転磁場により、換算時間τが3以下で配向することが分かった。通念以上に早い時間で配向が完了するという知見を得た。 (2)B//E条件で、無磁場、均一磁場、勾配磁場中でDNAの泳動測度を調査した。泳動速度は、磁場外、均一磁場、正勾配磁場中の順で減少した。正勾配中での磁気力による泳動速度の減少はゲル濃度1.5%で最大15.8%に達した。 (3)B⊥E条件で電気泳動を行い、磁気力方向への泳動距離の泳動電圧依存性を測定し、前項と比較した。クーロンカによる泳動距離に対する磁気力泳動距離の割合は約3%であり、磁気力効果が現れる電場強度の閾値は182-364V/mであった。前項の3-10%、286-429V/mと同程度であった。 (4)長周期交流矩形波電場を用いることで磁気力によるDNAの分離を試み、磁場勾配を下る向きのDNAの泳動を観測した。泳動電圧と泳動時間を適切に設定することでDNAバンドに濃淡が現れ、DNAサイズによる磁気分離の兆候を得た。また、矩形波周期による泳動の様子の違いも観測された。 本研究で磁気力のみによる泳動に成功した。この結果はDNAの分離能を高める上で極めて重要な知見である。今後磁気力を利用することによって、今までの電気泳動では分離が不可能であった磁化率の違いによる分離が可能となり、強磁場空間をDNAの分離へ応用することが期待できる。
|