研究概要 |
前年度までに開発した半導体ガスセンサの過渡応答モデルに,移動度の温度依存性を付与することにより,モデルの制度を格段に向上させることができた。このモデルを用いてガスの種類を識別すべく,センサ表面でのアルコール系およびカルボキシル系のガスの活性化エネルギーを,センサ表面のクラスターを用いた分子軌道計算により推定し,実際のガスセンサの過渡応答との関係を調べた。 その結果,センサ表面でのアルコール系およびカルボキシル系のガスの活性化エネルギーが実際のセンサの過渡応答の立ち上がりと強い相関があることを見出した。この関係を用いることにより,これらのガスに対する過渡応答の立ち上がりからガスの活性化エネルギーを推測でき,ガスの種類の識別が可能となった。センサ表面でのガスの活性化エネルギーを他の種類のガスについても求めることにより,より広範囲のガスの識別の可能性が示唆された。 開発した臭い識別センサの地場産業への応用の前段階として,和歌山県の地場産業である「湯浅醤油」の醸造工程に生じるアルコール系のガスをガスセンサでモニタし,発酵の程度を定量的に調べた。その結果アルコール系のガスの濃度から発酵の進み具合や醤油の「絞りごろ」を推定することができた。この結果からガスセンサを用いることで,現状職人の勘に頼っている湯浅醤油の発酵過程の定量的な把握が可能となった。用いるガスセンサでガスの識別が可能となれば,よりきめの細かい湯浅醤油の製造工程の管理や品質管理が可能となり,臭い識別センサの実用化への道が拓けるものと考える。
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