固体高分子の中にカーボン・ナノチューブを分散させた複合材料は、母体となる高分子材料と比較すると弾性的な強度が増す事が知られている。この複合材料における熱伝導率の振る舞いは、工学的に重要な問題である。単体のカーボン・ナノチューブは、極めて高い熱伝導率を示す一次元熱伝導体である事が従来の研究から知られているが、高分子複合材料における熱的な性質については未解決の問題が数多い。平成22年度においては、本研究課題で扱っている系において、熱伝導現象を解析する上で重要となる振動モードの性質に関する解析を行った。具体的には、系の速度自己相関関数について数値的に調べた。また、系のパワースペクトルの解析を行い、熱伝導に寄与するフォノンの物理的性質について定量的に明らかにした。また本研究課題で扱っている振動ダイナミクスは、調和近似に基づく記述では妥当ではなく、非調和項の効果(非線形性)が強く影響している。この問題に関連して、非線形性を有する物理系におけるモード解析に適した、新たな数値計算手法の開発を行った。 過去の研究において、炭化水素系における分子シミュレーションを行う際に用いられる力場は、数多く提案されている。しかし、それらの多くは室温における物理的性質を再現するという条件下で最適化されたものであり、より高温領域における系の挙動を記述する上で妥当なものか否かは必ずしも自明ではない。本研究では上記の観点から、高温領域における原子間の力場に関しても考察を行った。
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