研究概要 |
本研究では,申請者が取得した結晶粒子群の運動学的データを確率過程論に基づいて解析し,超塑性変形における結晶粒子群の動力学的理論を構築することを目的とした.本年度は,前年度に予備的検討を行ったランダムウォーク成分に摩擦力項を含むランジュバン方程式を適用して,結晶粒子群の運動解析を行った.まず,変位ベクトル図の精密補正を行い,SEMの倍率や軸のずれの影響について検討したところ,それらはあまり大きな影響を与えていないことが明らかになった.また,精密補正後のランダム速度ベクトルを詳細に検討すると,変形の初期においては,引張り軸方向とそれに垂直方向のランダム速度ベクトルの分散が逆相関になっているが,変形が進行すると共に,分散が一致していく傾向がより明瞭に認められた.次に,ランジュバン方程式をフーリエ逆変換した式から,ランダム速度ベクトルとランダム力それぞれのパワースペクトルを求め,ウイナー・ヒンチンの定理を用いて,ランダム速度ベクトルとランダム力の自己相関関数の関係式を理論的に導出した.次に,実験結果に,この理論解析を適用したところ,引張り軸方向及びそれに垂直な方向のランダム速度ベクトルの分散について,オーダーでの一致を示すことができたが,前述した分散の変動傾向を表すことはできなかった.この理由として,摩擦力項を定数として仮定していることが考えられ,摩擦力項の取り扱いは次年度の課題とすることにした. なお,理論解析の部分を日本機械学会材料加工・機械材料部門講演会M&P2010で講演したところ,優秀講演論文賞を受賞した.
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