研究概要 |
タイプIコラーゲンで塗布した35mmディッシュにウサギ由来線維芽細胞様細胞株を低濃度で播種し,細胞間接触が少ない状態で2日半だけ培養した,温度37℃と25℃の2条件と,二価陽イオンを含まないダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水で薄めた,ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)の濃度100%,0.2%,0%の3条件を組み合わせて,顕微鏡上インキュベータ内での1時間にわたる細胞の形態変化を明視野観察するとともに,一部の条件についてミトコンドリアの蛍光輝度測定を行った.培地のpHはDMEM100%のとき7,7で,低濃度では6.5から6.7であり,いずれも細胞培養に適した環境にあった.DMEM低濃度のとき,温度37℃では細胞は辺縁部からはがれて球状化が進み,1時間後には元の面積の20%から60%までになった.一方,温度を25℃に下げた条件では,進行速度が低下して元の面積の60%から80%までにしか減少せず,細胞はく離の明瞭な遅延効果があった.DMEM低濃度のときの面積の時間変化率はおおむね時間とともに直線的に減少し,速度零に近づく傾向にあった.細胞接着には培地中の二価陽イオンと細胞のエネルギ代謝が必要であることが知られており,ミトコンドリアの蛍光輝度の観察結果からはエネルギ代謝の明らかな変化は見られず,本実験条件での細胞のはく離は二価陽イオンの欠乏に起因した結果と解釈される.細胞死につながる変化として細胞内部で直接的に進行する死と,細胞が周辺組織に接着できなくなることをきっかけとして進行する死とが考えられるが,本実験結果から,後者の過程では1時間程度で細胞が死に至ることはないものと見受けられた.また,直径14mmのガラスボトムディッシュをカバーガラスで覆って閉鎖環境を作り,細胞の変化を観察した結果,短時間での変化は認められず,細胞はより厳しい環境にさらされないと,はく離等の変化が生じないことがわかった.
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