形状記憶合金は、単位体積当たりの発生力と変位量が大きいことからMEMS用アクチュエータとして期待されている。しかし、その応答速度は数10Hz程度と遅いのが欠点である。応答速度の高速化には、(1)変態温度の上昇、(2)変態温度ヒステリシスの低減、(3)温度以外の刺激による変態挙動の利用等が有効であり、(1)や(2)の実現のためにはTi-Ni合金へのPd、Zr、Cu等第3元素の添加が、(3)には磁場で変態する強磁性形状記憶合金が有望視されている。本研究では、スパッタリング法によって種々の組成のTi-Ni-X3元形状記憶合金およびFe-Pd強磁性形状記憶合金薄膜を作製し、高速アクチュエータとして利用可能な素材を得るための成膜・熱処理条件を検討する。特に、従来殆ど行われていない通電加熱に伴う形状記憶挙動の定量評価が可能なシステムを構築し、より実用的な評価を取り入れることが本研究の大きな特徴である。 20年度は、一定荷重下での通電加熱に伴う試料の動的な形状回復挙動を計測できる装置を開発することを目標とした。従来よりこの目的に合う装置の試作を始めていたが、今年度はプロトタイプの装置での問題を解消する空気軸受けステージを利用した新しい装置を完成させた。また、試験機の製作と並行してTi-Ni系3元合金のうちのTi-Ni-Cu合金に焦点を絞り、種々のCu組成の3元合金薄膜を3源スパッタリング法によって作製し、その形状記憶挙動を評価することも行った。その結果、Cuの添加によって変態温度ヒステリシスがTi-Ni2元合金の40℃前後から13℃程度まで大きく低下することがわかった。さらに、塑性変形に対する臨界応力もTi-Ni合金薄膜よりはるかに大きくなることが明らかとなり、Ti-Ni-Cu合金がTi-Ni2元合金より実用性の優れた合金系であることがわかった。
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