研究概要 |
人工股関節の固定の際,緩みを防ぐために,ステム部分を強く打ち込む方法(プレスフイット固定)が一般に用いられている。その打ち込み力により発生する残留応力が,骨にどのような影響を与えるかという問題は,大腿部痛の発生原因とも関連して重要である.一方,骨には力学的刺激による骨形成や骨吸収が起きることが知られている.しかし,従来の研究では,力学刺激を生理的な変動荷重に依存しており,人工関節固定部に発生する定常荷重の骨への影響については推定できなかった. 本研究では,実験動物の長管骨に形状記憶合金のピンを挿入して,その弾性力により髄腔内から定常荷重を加える方法を開発した.そして,一定期間の定常荷重が骨形態の変化や骨組織に与える生理的な影響を検討した.形状未記憶Ni-Ti合金線(アクトメント0.4φ)を,形状回復温度が体温より十分低い温度になるように熱処理を行って,荷重ピンを作成した.ネンブタール麻酔下で,9週齢Wistarラットの右足大腿骨顆間部より骨髄腔内に荷重ピンを挿入し,左足は顆間部に穴を開けるだけで非荷重とした.その後,挿入初日1,2,3週間目に軟X線撮影により、X線透過度,骨梁構造の変化などについて検討した.また,処置後3週の時点で安楽死させ,両側大腿骨採取後、骨組織の変化を観察した。ラット骨髄腔内において、1.0~4.0Nの負荷量を発生させる荷重ピンを作成できた. 荷重ピン挿入処置後3週の時点において,皮質骨の非薄化,骨硬化像,骨透過像等のX線透過度変化,骨梁構造の変化に著しい変化は認められなかった.荷重群では形状記憶合金と骨幹部皮質骨の内環状層板の接触領域で金属表面に骨形成像らしきものが認められた.しかし、皮質骨における骨吸収像や骨層板の変化は認められなかった。荷重群のμ-CTにおいて骨形成像を確認することができた。
|