研究概要 |
人工股関節ステム表面の応力が,骨にどのような影響を与えるかという問題は,長期に渡る緩みの予防,および,術後の大腿部痛の発生原因の推定と関連して重要である.本研究では,実験動物の大腿骨に形状記憶合金のピンを挿入することにより髄腔内から定常荷重を加える方法を考案し,定常荷重を受けた骨組織に生じる変化を調べた。 形状未記憶ニッケルチタン合金線を用いて,荷重ピンを作成した.9週齢Wistar系ラット6頭をピンの挿入実験に用いた.ネンブタール麻酔下で,右足大腿骨顆間部より骨髄腔内に荷重ピンを挿入し荷重群とした.X線観察により,皮質骨と形状記憶合金の接触を確認した。反対足は顆間部の穴開けのみを行い,対照群とした.1週間ごとに軟X線撮影により骨梁構造の変化を観察した.3頭をピン挿入後3週で安楽死させ,両側大腿骨採取後、マイクロCTにより骨組織の変化を観察した.3頭については,6週間まで継続観察した.6週経過時点では,接触圧力97 MPaと109 MPaの例で,遠位部外側での骨肥厚が明らかになった.荷重を加えたピンの表面と骨の間の界面においては,骨の降伏応力に近い応力に曝されているにも関わらず,数週間にわたって,変化がほとんど見られなかった.これは,接触による力学刺激が,骨組織にとって特殊な環境であることを示した。また,人工関節ステムの固定力として働く,骨内部の応力が長期にわたって残留する可能性が示された.一方,皮質骨の外側では,髄腔内に高い応力あると,その影響により,骨肥厚が発生し得ることがわかった.この部分では,骨肥厚による断面積の増加による応力の緩和がリモデリング法則に従って起きたと考えられた.
|