研究概要 |
前年度(平成21年度)においては,環境適応型高分子系複合材料の中で『第3の材料』として有用な力学的機能を有する微細フィブリル化セルロースが,その単位体積あたりの表面積(比表面積)が極めて大きいために分散性に乏しく液状の母材中では容易に凝集化する事を解消するために,3ロール式ミルを利用し,それに適した狭間条件を明らかにした.それをもとに本年度においては,研究実施計画に従い,本手法により分散化された微細フィブリル化セルロースを用いた天然繊維強化複合材料を実際に作成し,その力学的特性(強度および破壊じん性値)の向上と,それを支配する破壊損傷機構の改善を検証した.具体的には,本手法によって対象とした材料の臨界的な最大強度の増加はわずかに増加するともに,一般に天然繊維を用いる高分子系複合材料では低いと言われる破壊エネルギを約2倍(200%)に向上させる事ができた.本手法によって微細フィブリル化セルロースを適切に添加すると,特に繊維強度が低い天然繊維を利用する複合材料の最終破壊を支配するき裂進展が強化繊維の直前位置に達し繊維/母材問の界面破壊を引き起こすまでに至るまでの間に比較的大きな変形が強化繊維の周辺にて許容され,その結果としてき裂進展の経路付近で局所的なひずみエネルギが分散化される事によりこれらの改善がもたらされるような力学機構が存在する事もわかった.またこれらの改善手法は,天然繊維を強化材とする複合材料にだけではなく,カーボン繊維などの汎用的な工業繊維を使う複合材料でも応用可能である事がわかった.
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