研究概要 |
前年度(平成22年度)においては,研究実施計画に従い,本手法により分散化されたセルロースフィブリル(微細フィブリル化セルロース)を用いた天然繊維強化複合材料を実際に作成し,その力学的特性(強度および破壊じん性値)の向上と,それを支配する破壊損傷機構の改善を検証した.それをもとに本年度においては昨年度までに行った研究内容を発展させ,天然のプラスチックス母材とする複合材料(いわゆる天然由来の高分子系複合材料)だけではなく,汎用の高機能タイプの炭素繊維強化複合材料にも,本手法を展開する事とした. 特に本年度においては,強化繊維と母材に添加する微細フィブリルとの破壊時の力学的な干渉作用を明らかにし,安定した機械的特性の改善を得られるような力学条件を明確化した.研究では添加した微細繊維が混在した材料をマクロに評価するのではなく,単繊維と微細フィブリル含有樹脂だけの干渉効果の基本特性を把握できるモデル試験法を模索し,その評価手法を確立し,本研究で得られた効果の特徴付けを定量的に行えるようにした.具体的には,フィブリルが存在する母材中に生じる内部損傷き裂が強化繊維(いわゆる主繊維)を横切る際のき裂進展抵抗を定量化する検証実験を行い,その改善の効果の原理に関する力学的に合理的な説明モデルを提案した.なお現実の支配現象の不安定性を決定するパラメータの本質的定義にまでは至らなかったが,本研究にて明らかにした改善の効果は,実際には複合材料の強化繊維(いわゆる主繊維)が多数に並列的に存在するが故に発現する考え方も提案する事ができた. これらにより,セルロースに代表される微細フィブリルを,繊維強化複合材料の耐久特性を改善するための『第3の材料』として利用する際の基本技術とそれに関連する力学的知見を提示する事ができた。
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