研究概要 |
切削工具すくい面の微細構造と切削時の摩擦の関係を定量化し,切削における潤滑メカニズムを明らかにすることで,最適潤滑を実現するための工具表面設計手法を確立することを目的として,独自に開発した工具摩擦試験機により摩擦試験を実施した.被削材料がアルミニウム合金の場合,付着油膜厚さと表面粗さの比で表される油膜パラメータ,および工具表面温度をパラメータとして潤滑性能が十分に発現する条件が見出された.この条件は実切削においても,断続切削条件であれば定量的な一致を見ることが示唆された.一方,ステンレスやニッケル基耐熱合金のように,工具にとって高負荷条件となる被削剤においては,油膜パラメータでは潤滑性を評価することはできなかった.ここでの試験では潤滑油剤として油性効果の有無を確認するため,エステル基油とパラフィン系鉱油を用いた.この結果は,高負荷切削では工具温度が油性効果が消失する高温度域にあることが原因であると考えられた.そこで,供試油剤をエステル基油,およびにそれに硫黄系極圧剤を添加したものとして,極圧効果発現の有無を評価軸とする実験を実施した.この評価軸でみると,工具摩擦試験結果と実切削におけるすくい面摩擦測定結果は,高負荷(高速・高切り込み)領域で,かつ構成刃先が生じない条件でのみ一致した.これより,耐熱合金のような難削材においては,表面に比較的大きな微細構造を持ち凝着を抑止するとともに極圧剤を工具刃先へ導入する工具設計が必要であることが示唆された.
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