研究概要 |
昨年度までに独自の摩擦試験機による試験結果から,工具表面の粗さと付着油膜厚さの比とすくい面摩擦の関係は油剤の種類により異なることが分った.また,狭小空間へ油剤や油剤蒸気が侵入する際の駆動力の一つが油剤の工具への濡れであることから,油剤の極性が影響していると考えられる.この効果の油剤の極性との関係を定量的に見積もるために,微細加工領域で低速加工する場合の加工力と浸透現象の直接観察をさらに進めた.低速領域では大気中の酸素がすくい面へ浸透し摩擦を低下させる効果も同時に生ずるため,加工点が潤滑油に浸漬するよう加工したところ,無極性のファイラフィン系鉱油では表面粗さの大きな工具を用いても明らかな潤滑効果が得られなかった.一方,エステル油では大きな潤滑効果が得られた.また,電子顕微鏡内に同様な微細加工装置を設置し,真空中でも液体として存在できるイオン液体を潤滑剤として切削試験を行うことで,切り屑と工具間の狭小空間へ液体が浸透する様子とその際の切り屑流出の様子を直接観察した.工具表面に微細放電加工で施した等方的微細構造を持つ場合とミラーポリッシュした表面を持つ場合の両者を比較すると,自由表面側からクラックを通して浸透した液体がすくい面側を完全に濡らすまでの時間には大きな相違があることが分った.この相違は活性の高い新生面である切り屑表面がクラックから浸透した液体をすくい面内へ濡れにより拡張させる際に,空間を持つ微細構造表面では,粘性抵抗が小さいためであると理解できる.これら一連の実験から,加工液が液体として振舞える環境,すなわち切削点温度が200度程度までであれば,表面が凝着で埋まることなく外部と連続な狭小空間を提供する微細構造が切削における潤滑性の向上に寄与できると考えられる.
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