研究概要 |
本研究は,固体と液体の接触角が移動速度に依存する動的ぬれの問題を明らかにするとともに,微小液滴の運動制御法を構築することを目的としている.前年度の毛細管内液柱の運動に関する実験結果を参照して,接触角の速度依存性を説明する理論的モデルの構築を行った.接触線が固体面上に存在するあらさなどの欠陥部にトラップされた後,解放されて有限速度で移動するスリップ運動に着目し,その運動時における粘性応力を算出した.接触線における粘性応力発散の問題を回避するため,欠陥部のスケールの分だけ接触線が変位し,気液界面がわずかに上に凸となる形状を仮定した.接触線近傍に作用する固気・固液ならびに気液界面張力と粘性力との釣り合いより,動的接触角を算出した.欠陥部の全表面に占める面積比を適当に仮定した結果,接触角の速度依存性に対し,実験値とよく一致する結果を得ることができた. 固体面上の微小液滴(1μL)を移動制御する新たな手法について検討を行った.壁面上の液滴を移動させる場合,接触角履歴の大きさに依存する表面張力の抵抗が問題となる.まず,超音波振動子により,周波数28kHzで数μmの振幅をもつ振動をSAMs(自己組織化単分子膜)壁面に与えた.その結果,接触角履歴を10゜以上低減でき,液滴の転落角度の測定から,移動の抵抗力を80%減少させることができた.振動を与えた状態で,液滴の一端に出力10~200mWのレーザー光を照射した.レーザーによる加熱の効果により,照射端のぬれ性が改善され,接触角が5゜程度減少する現象が観察された.その結果,表面張力の合力が発生し,液滴はレーザー照射端の方向に移動することが確認できた.本実験において,最大で0.6mm/sの速度で液滴を移動させることが可能であった.
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