地球温暖化防止に関する京都議定書により製紙業界に課せられているエネルギー削減を図るために、高濃度抄紙技術に関する研究を行った。すなわち、抄紙機ヘッドボックスの流れへの適用を考慮して、まずは正方形断面流路内のパルプ液流れを取り上げ、初年度開発した濃度評価技術を用いて濃度分布やその時間的変化情報を取得して、圧力損失と流量の関係に及ぼすパルプ繊維分散の様相について明らかにした。また、超音波流速計と高精度ハイスピードPIVシステムを併用して流れの速度分布を求めるとともに、実機での流れ状態(乱流)において圧力損失と濃度むらとの関わりが深い壁面近傍の水環部内(低濃度流体でなす一種の境界層)の乱れ強さについても測定し、単相水流の場合と比較しつつ調査した。そして、これら濃度分布と速度分布に及ぼす流量(平均流速)と供試パルプ液濃度の影響を明らかにした。ついで、実機においては流路に平板が挿入されてパルプ液の分散が図られ、シート状に噴出されていることから平行流路に分散板を挿入した場合について、パルプ繊維濃度の軸方向変化や濃度むらの度合いを調査した。ここでの分散板の後縁形状には、後縁を直角に切り落としてはく離せん断層を形成しやすい単純平板を取り上げている。その結果、分散部上流での流れパターン、すなわち挿入板壁面上に形成される水環部の流れと後縁でのはく離せん断層との絡み合いで、後流領域のパルプ液は複雑な挙動を呈することを明らかにした。 以上、これらの成果は、当初掲げた平成21年度の目標を概ね達成している。
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