研究概要 |
コールドチェーンの発達に伴って食品を安全かつ美味しく凍結保存する技術の確立が求められている.凍結保存は原理的には,低温化と活性水分の低減により生化学反応の抑制を図るものであるが,凍結の過程で細胞レベルのミクロ現象が生じ,これが各種の凍結損傷に繋がる.したがって,食品の品質を劣化させない効果的な凍結技術の開発が課題となる. 本研究では,超音波を付与することにより凍結過程における氷晶形成の能動的制御を追究する.すなわち,超音波の付与により,超音波キャビテーションによる衝撃波を発生させ,これを利用して,(1)細胞内過冷却の能動的解除,(2)細胞内外の氷結晶の破砕・微細化,(3)氷核生成数の増進を図り,高品質な凍結を実現する技術の開発を目的とする. 本年度は,(1)超音波照射が過冷却に及ぼす影響の実験的検討,および(2)冷却過程で超音波照射した場合に組織体内に形成される過冷却状態の検討を目的に,研究を実施した.主な成果は以下のように要約される.1.模擬食品として寒天ゲルを供試した凍結実験の結果,28kHzの周波数の超音波を高出力で超音波照射した場合には過冷却の解除効果が,また,低出力で照射した場合には過冷却の促進効果が見られた.また,過冷却状態から凍結が開始する場合,超音波照射による氷晶の微細化の効果が生じることが示された.2.水を供試した実験の結果,1MHzの周波数の超音波を照射しながら冷却すると,照射周期によっては過冷却促進の傾向が見られた.しかし,実験データが少ないため,追加実験を行ってその効果を検証する必要がある.3.FDTD法を用いた音場解析と熱伝導解析を組み合わせた計算モデルが構築され,試料内の音波の伝播,温度分布,および過冷却域の形成など,氷晶形成に関わる情報を計算することが可能になった.
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