研究概要 |
通常の超音波による異常診断は,被検査物に投射した超音波が異常部である不連続界面で反射し,これをパルスとして測定する.しかしながら,応力の状態により明確な不連続性を示さない亀裂や剥離(閉じた亀裂などと呼ばれる)が存在し,これらは通常の方法での検出は難しい.機械の安全確保を確実にするためには,このような亀裂・剥離の検出は避けられない.これに対し申請者は,2つの物体の接触面を通過する超音波の振動数が変調し,さらに,その変調の度合いが接触状態の違いにより異なる現象を見出した.この現象は,閉じた亀裂の存在を発見できる可能性を持ち,さらには,亀裂発生の前段階のように物体内部の組成変化も捉える可能性がある.申請者はこの現象を便宜的に超音波変調と呼んでおり,これを用いることで,通常の方法では難しい対象の異常検出,測定方法を確立し,機械装置の安全確保に貢献することを目的とする. 本年度は,測定対象物として比較的扱いやすいゴムを用い,人工的に亀裂(剥離)を作り,圧力を操作して亀裂の大きさや開閉状態をコントロールした.これに様々な超音波を投射して超音波の振動数の変化(変調)度合いを測定した.その結果,以下のことが明らかになった. (1)加える圧力が小さく亀裂の開きが大きいほど,亀裂を通過した超音波の振動数は低下する傾向にある. (2)振動数の低下度合いは,超音波の振幅にともなって変動することがある.亀裂間の接触状態が粗いほど,振動数の変動,変調幅が大きい. (3)超音波の振動数が高いほど,上記(1),(2)の性質は顕著になる傾向にある.ただし,高い振動数ほど透過能力が低く外乱の影響を受けやすいため,対象によって適切な超音波振動数を見極める必要がある.
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