高真空中のアーク放電は、電極金属が蒸発、電離して生成される金属蒸気プラズマで維持されている。キロアンペア級の大電流アークを除けば、金属蒸気は全て陰極表面上の陰極点から供給され、陽極側ではアークプラズマは拡散する。このため真空アーク放電は陰極金属のイオン源として利用可能であるが、小電流時の真空アーク放電は不安定であり、工学的応用は進んでいない。本研究の旨的は、磁界の効果を利用して陰極点と陽極点が共に発生する小電流の真空アークを安定して維持し、このとき陰極と陽極を異種金属として、両電極から発生する2種類の金属イオンの量を制御することである。 本年度は放電空間内に600ミリテスラ以下の円盤状および円柱状の永久磁石を単独または複数組み合わせて配置することで磁界分布を変化させながら、30アンペア以下の電流を流した状態で陰極点および陽極点の発生を観測した。その結果、陽極の表面部分の碓界が強まる磁場配位の場合、陽極点が陽極表面に薪たに発生し、柱状のプラズマが安定に維持された。また、両電極が同一軸上にない場合でも、磁界分布を調整することで、陰極点および陽極点を同時に発生させながら、プラズマ柱を湾曲させることができた。空間分解された発光分光計測の結果、このとき両電極のイオンは磁力線に沿って互いに対向する電極に到達するが、中性原子は対向電極に達するものは少ないことが明らかになった。このように、磁界を用いることにより小電流でも長時間安定して2種類のイオンを同時に発生でき、ドロップレットの抑制が可能な薪しいタイプのイオン源への応用が考えられる。
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