研究概要 |
情報通信の大容量化・多機能化に伴い,LiNbO3やLiTaO3の圧電性を利用した弾性表面波フィルタの低損失化・広帯域化が強く要請されている.本研究では,リーキー弾性表面波伝搬の損失の原因となるバルク波を抑圧する手法として,逆プロトン交換法により基板内部に埋め込んだプロトン交換層をバルク波のトラップ層として利用する方法を提案し,バルク波フリー,かつバルクと同等の結合係数を有する基板構造を実現させ,低損失・広帯域弾性表面波フィルタを実現させることを目的としている.本年度の実施内容と研究成果を以下に示す. 1.逆プロトン交換層の作製条件:評価用基板として用いる41°Y-cut, 10°Y-cut LiNbO3基板を,220℃の安息香酸中でプロトン交換,は300℃のLiNO3-NaNO3-KNO3溶液中で逆プロトン交換処理し,プリズムカップラ法により屈折率分布を決定し,逆プロトン交換層の深さと,埋め込まれたプロトン交換層の深さに対する作製条件依存性を得た. 2.バルク波フリー基板構造の弾性表面波特性の解析:空気/逆プロトン交換層(LiNbO3バルク層)/弾性定数が低減したLiNbO3基板の3層構造モデルに対して,リーキー表面波における,位相速度,結合係数,伝搬減衰のカット角,層厚依存性を詳細に解析した.短絡表面ではゼロ減衰を示すY軸からの回転角が64°から5°までシフトすること,自由表面では速い横波を超える範囲が-30°〜95°に拡大し,その境界では伝搬減衰が消失することを明らかにした. 3.バルク波フリー基板構造の実験的検討:41°Y-XLN基板上のLSAW伝搬損失を測定した結果,短絡表面ではプロトン交換層を埋め込むことによって,未処理の0.036dB/波長から0.015dB/波長に減少した.自由表面においても伝搬損失の減少が観測された.
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