研究概要 |
情報通信の大容量化・多機能化に伴い,LiNbO3やLiTaO3の圧電性を利用した弾性表面波フィルタの低損失化・広帯域化が強く要請されている.本研究では,リーキー弾性表面波伝搬の損失の原因となるバルク波を抑圧する手法として,逆プロトン交換法により基板内部に埋め込んだプロトン交換層をバルク波のトラップ層として利用する方法を提案し,バルク波フリー,かつバルクと同等の結合係数を有する基板構造を実現させ,低損失・広帯域弾性表面波フィルタを実現させることを目的としている.本年度の実施内容と研究成果を以下に示す. 1.昨年度に確立した逆プロトン交換層の作製条件を用いて,3インチ10°Y-cut LiNbO3基板上に,プロトン交換層,および逆プロトン交換層を形成し,提案構造を作製した.日本電波工業株式会社の協力を得て,ウエハ上に波長3.6μmの電極を有する1.3GHzの弾性表面波遅延線を作製し,伝搬損失と結合係数を評価した.短絡表面ではプロトン交換層を埋め込むことによって,未処理試料の0.44dB/波長から0.01dB/波長に減少した.短絡グレーティングにおいても伝搬損失の減少が観測された.結合係数は未処理試料の約半分の値を有していた. 2.リーキー表面波よりも約2倍の高速な位相速度を有する縦波型リーキー表面波に対して,提案構造における位相速度,結合係数,伝搬減衰を解析した.比較的大きな結合係数を持つことで知られるX-cut36°伝搬LiNbO3基板上に,0.3~0.5波長の厚みの逆プロトン交換層を形成すると、短絡表面の伝搬減衰が完全に消失することを明らかにした.
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