研究概要 |
電荷供給層内にCuイオンを含むCu系,(Cu,C)系超伝導体は、電荷供給層の酸化度、単位胞内ホール分布及びバンド間エネルギー差などの電子構造の変調範囲が広く、人工格子法に代表される薄膜合成手法が適用できれば、臨界温度、異方性等の広範な変調が期待される。また、薄い超伝導層の2層構造では多成分超伝導、成分間位相差ソリトンの発現の可能性が指摘されており、その研究を推進するためのプラットホームとなる材料が必要として、特に高温超伝導体の積層構造は有用である。我々はCu系超伝導膜の合成の第一段階としてエピタキシャル膜成長時のCO2ガスの導入等により(Cu, C)-Ba-O膜においてCu-1201構造の安定化、超伝導化に成功してきた。今回、人工格子法による多層構造化及びバンド間位相差ソリトン研究のプラットホーム化の一環として(Cu, C)-Ba-O/CaCuO2/(Cu, C)-Ba-O構造薄膜を堆積させた積層構造の電気伝導性の作製条件依存性を調べたので報告する。 実験・結果:膜形成はパルスレーザ堆積法を用い、基板温度500〜550℃でSrTiO3(001)基板上に膜形成を行った。今回、基板の格子ミスマッチを緩和するためにSrCuO2無限層構造薄膜バッファ層を挿入し(Cu, C)-1201薄膜を堆積させた。バッファ層を挿入することで、表面平均粗さがユニットセル高さの約1/4の2.0Aになった。一方、基板に直接堆積させた(Cu, C)-1201薄膜がCO2ガス分圧、基板温度等により広い範囲で超伝導発現するのに対し、同条件でバッファ層を挿入した試料では常温抵抗が高く、超伝導発現の再現性が低かった。そこで、酸素分圧を従来の5mTorrから50〜150mTorrの条件で(Cu, C)-1201薄膜形成を行ったところ伝導性の向上が見られた。このことは、バッファ層を施した膜は表面平坦性や結晶性が良いために、過剰酸素侵入によるホールドーピングが不十分であったと考えられる。高酸素圧条件(P-O2=150mTorr)下で(Cu, C)-1201上にCaCuO2を堆積させたところ、良い結晶性と超伝導発現を両立することができた。さらにその上に(Cu, C)-1201を堆積させた条件において、ホールドーピングが不十分なため抵抗率が高いと考えられるが、良い結晶性と超伝導発現を確認することができた。このことはCu系多層構造が作製可能であることを示唆している。
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