研究課題
基盤研究(C)
本研究では、有機EL膜(BAlq膜)上に電極膜をスパッタ法で形成した場合に有機EL膜が受けるダメージの原因について解明し、ダメージなしで電極膜を作製するスパッタ技術を開発することを目的とした研究に取り組み、以下の結果を得た。1)本研究では、まず、有機EL薄膜(BAlq膜)の表面に大きな運動エネルギーをもった電子、Arイオン、および酸素イオンを照射した場合に、有機膜が受けるダメージをPL強度の測定から評価した結果、いずれの場合も数十eV以上のエネルギーを持つ高エネルギー粒子の衝撃は有機膜に大きなダメージを与えることを確認した。2)有機膜上にITO透明電極膜をスパッタ成膜することで、有機膜が受けるダメージを同様な方法により評価した。その結果、スパッタ成膜時にターゲットから放出される酸素負イオンや2次電子による基板衝撃が起こらない対向ターゲット式スパッタ法を用いることで、通常のマグネトロンスパッタ法に比較して有機膜が受けるダメージはかなり低減できるものの、通常の対向ターゲット式スパッタ法では、ターゲット端から僅かに放出される2次電子による基板衝撃の影響で、特性が劣化してしまうことが分かった。また、スパッタ時にターゲット表面で反射される反跳スパッタガス原子の基板衝撃によるダメージはさほど大きく無いものの、スパッタ放出粒子に含まれる高エネルギー粒子による基板衝撃によるダメージはかなり大きく、これを抑制するために、スパッタガス圧1Pa以上で成膜すること,Arガスの代わりに質量が大きなKrガスを用いることがダメージの軽減に有効であることを明らかにした。これらの研究成果を踏まえて、2次電子や高エネルギースパッタ原子による基板衝撃をほぼ完全に抑制できるスパッタ成膜を実現した結果、有機薄膜にダメージを与えることなく電極膜を作製できるようになった。現在、実際の有機EL素子作製プロセスに本研究で開発したスパッタ装置を導入して、その有効性の検証を行っている。
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