研究概要 |
研究の目的 パウダー・イン・チューブ(PIT)法によるMgB_2線材の作製において、MgB_2粉を予め有機酸溶液中で処理すると、結晶粒の微細化や、溶液からの炭素置換による上部臨界磁界(B_<c2>)の向上で、臨界電流密度(J_c)特性が改善されることをこれまで明らかにした。この溶液処理プロセスは種々のパラメータを含んでいるが、これらのパラメータと線材特性との相関関係を詳細に検討することにより、MgB_2の化学溶液処理がex-situ法線材のJ_c特性向上にどれほど有効かを明らかにすることが、本研究の目的である。 結果 21年度は更なる向上を目指すため、作製パラメータの最適化を図った。市販MgB_2粉を種々の有機酸溶液で処理したが、それらの粉末を用いて作製した線材のJ_c特性には溶液依存性が見られた。しかし、J_c特性は実用化レベルには不十分であり、更なる改善のため、B_<c2>の向上に最も有効な手法の一つである炭素置換を検討した。本手法で起こる炭素置換は、有機溶媒の位子表面への吸着によるものであり、置換量は2-3%程度で微量である。即ち、特性の改善は限られる。そこで、更なる改善のため、自作の炭素置換粉MgB_<2-x>C_x(x=0.05,0.1)を用いて線材を作製、評価を行った。この粉末の使用により結晶粒間結合が弱結合化し、J_cは低下した。透過電子顕微鏡による組織観察から、溶液処理及び未処理に関わらず、炭素置換粉でのみアモルファス状の微粒子が見られ、これが弱結合化を引き起こしていると考えられる。即ち、ex-situ法において、炭素置換粉末を充填粉として使用するのは困難であり、溶液処理法と組み合わせても、J_c特性の大幅な向上は容易ではないと思われる。 そこで、処理温度を上げたり、溶液濃度を調整したりして、炭素置換の増大や特性改善を図ったが、室温、高濃度溶液による処理が最も有効であることを明らかにした。
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