研究の目的はパウダー・イン・チューブ(PIT)法で作製したMgB_2線材の臨界電流密度(Jc)特性の向上である。PIT法は、金属管に粉末を充填して線材形状に加工する手法であるが、MgB_2粉を充填するex situ法と、MgB_2の原料粉、例えばMgとBの混合粉を充填するin situ法とがある。どちらも充填粉の品質がJc特性に大きな影響を及ぼす。ex situ法では、有機酸溶液中で処理した、活性なMgB_2粉末を用いて線材を作製すると、Jc特性が改善されることをこれまでに報告した。前年度までシース材として、Mgと反応せず、安価なFeを用いていたが、シース/MgB_2界面に反応層Fe_2Bが生成した。そこで本年度は、シース材との反応を抑制するため、Feの代わりにTaを用い、この溶液処理法がどの程度までJc特性改善に有効かを明らかにすることを目的とした。一方、in situ法用充填粉末については、Mg-B(-C-H)系の前駆体粉末を溶液プロセスによって作製し、その熱分解や結晶化から活性なMgB_2の生成を目指した。 研究結果として、ex situプロセスでは、MgB_2粉の処理、未処理に関わらず、TaシースではFeと同様、加工後のMgB_2コア層の組織は均質であった。しかし、加熱処理により、FeシースではMgB_2の焼結により、Jc特性が大幅に改善されるのに対して、Taシースでは大幅に低下した。Taシース線材のMgB_2コア層には、横手方向に多くの亀裂が入っていることが、組織観察から明らかとなった。これらは超伝導電流パスの障害となり、ex situ法ではTaシースは不適であるものと考えられる。 一方、in situプロセスでは、Mg-B(-C-H)系化合物の一つとして、MgCl_2とNaBH_4とのメカノケミカル反応からMg(BH_4)_2を作製し、Arガス雰囲気中の加熱分解により、MgB_2がほぼ単相で得られることを確認した。
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