半導体デバイスは、微細化・集積化によって性能向上を図ることが物理的制約のために極めて困難になってきている。そのために、新しい動作原理にもとづく能動素子の研究が現在盛んに行われてきている。そのなかでも特に重要なのは量子力学的なふるまい、すなわち電子の波動性を積極的に用いた能動デバイスである。本研究においては電荷密度波と呼ばれる巨視的量子状態を利用したデバイスについて基礎的な実験を行い、実現の可能性を論じる。 本年度は、電荷密度波転移を起こすo-TaS3結晶について、バルク結晶試料(大きさ5mm×0.01mm×0.01mm)における非局所伝導についての実験と微小結晶試料(大きさ100μm×1μm×1μm)における電極作成技術についての予備実験を行った。 前者については、電荷密度波転移温度より低温において、位相すべり電圧として知られる非局所電場の観測に成功した。予備的な結果解析によれば、測定温度領域(30-100K)において電流依存性および温度依存性が既存の位相すべりモデルによって記述することができることが明らかになった。この結果は今後の追試において確認する予定である。 後者については、電子ビームリソグラフィーを用いた電極幅1μm・電極間隔1μmの金電極をシリコン基盤上に作成した。この電極の上に微小結晶試料をアライメントして固定する手法を確立した。電子ビームによる局所加熱法を用いて金電極と試料間の界面抵抗を低減させる実験を行ったが、条件によっては試料が損傷してしまうことがあり、今後の研究が必要である。
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