電荷密度波を示す擬一次元伝導体o-TaS3において、非局所的な伝導が存在することを実験的に明らかにした。電荷密度波の非局所的な伝導はこれまでも報告されているが、電極における位相すべりによって位相相関が壊されるために、電流注入電極よりも離れたところでは非局所性は現れないのが通常である。また、スライディングを伴わない低電場における伝導は熱励起によって生じた準粒子の寄与によるのでこの領域においては非局所伝導が期待されない。ところが、本研究において、非局所伝導を検出する電極配置において電流電圧特性の温度依存性を測定したところ、電荷密度波転移温度(220K)よりも低温では非局所電圧が検出された。さらに、これまで知られている位相すべり電圧と比較すると、位相すべりが生じていない低電場領域においてもこの非局所電圧が存在することがあきらかになった。この現象を説明するために、トポロジカル欠陥の運動を考える。電荷密度波の波長が母格子の整数倍に近いとき、波長が母格子に整合して一定間隔でトポロジカル欠陥が導入される現象「ディスコメンシュレーション」が生じる。この系において、広い温度範囲にわたってディスコメンシュレーションが起きることが以前の我々の研究によって明らかになっているので、本研究で発見した非局所伝導はこの際に生じるトポロジカル欠陥の運動の結果と考えるのがもっともらしい。一方で、はo-TaS3の低温における電気伝導はソリトンが支配しているとこれまで提案されている。ソリトン伝導を前提とすると、生成されたソリトンの寿命が長く、電極を通り越してから伝導電子に変換されるような新しいメカニズムが必要となる。いずれの場合においても、本研究で目的としている電荷密度波デバイスの実現にむけて重要な知見が得られたと考えている。
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