本研究によって発見された、o-TaS3の電荷密度波(CDW)における新規な非局所伝導について、その詳細を研究した。具体的には、電荷密度波転移温度よりも十分低い温度において、位相すべり電圧の磁場依存性の測定を試みた。位相すべり電圧は直流4端子法で通常の配置と電流・電圧端子を入れ替えたときの電圧差として測定することができる。この測定をT=4.2KにおいてB=4Tまでの範囲で行った。その結果、位相すべり電圧には磁場の影響が現れないことがわかった。さらに、磁気抵抗効果の電流依存性を測定したところ、磁場の影響を受けるのは低電場領域にて伝導を担うキャリアであり、集団運動(スライディング)ではないことがわかった。これは位相すべり電圧に磁場の影響がないという実験結果とつじつまがあっている。 この実験結果を含め、本研究における一連の結果からo-TaS3のCDWにおける非局所伝導について次のようなモデルが提案できる。パイエルス転移温度(Tp=220K)において非整合CDWが生じる。温度を下げていくと非整合CDWと整合CDWの共存状態が生じる。これは空間的に分離して共存しているので試料中に相境界ができる。相境界にはトポロジカル欠陥が生じ、これが電荷±2eを持つ。トポロジカル欠陥は空間的に動くことができるので、CDWが全体として静止している状況(位相すべりが起きていない状況)においても電気伝導を担うキャリアとして働く。このキャリアが、トポロジカル欠陥の間の相互作用を反映して非局所伝導に寄与する。すなわち、電流端子間の電位勾配が、それから離れたところにおける電圧端子においても電位勾配として検出される。
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