研究概要 |
本年度は提案した光励起磁気記録で重要な, 半導体-強磁性薄膜接合系における磁気ダイナミクスを検討するために, 1試料作製, 2磁気光学効果測定装置整備, 3スピン輸送係数計算, を行った. 1 試料作製 : GaAs(100)面基板上にFe薄膜をスパッター法により成膜した. この試料へのX線回折によると(110)面が成長しており, また磁化測定(VSM)と強磁性共鳴測定によると磁化はFeのそれより小さな値を示しており不純物の存在が疑われる. 今後GaAs基板の表面処理, 成膜温度, Arガス圧等の成膜条件をより細かく制御して, 基板に格子整合したFe(100)面の成膜を目指す. 2 光学系整備 : 通常のカー効果測定装置の立ち上げを行い, 薄膜試料の磁化状態をHeNeレーザ(波長633nm)を使って最大磁場10kOeまで測定できるよう整備を行った. この装置による磁化測定の結果は同じ試料のVSMによる測定結果とよく一致しており, 正しく測定が行えることを確認できた. 顕微測定のためには対物レンズを強磁場の中に置く必要があり, 対物レンズ中の金属部品が磁化することによる測定への影響が問題になる. 今後この点を検討し, 顕微測定系を立ち上げていく. 3 スピン輸送係数計算 : スピン偏極電子の輸送係数(移動度と拡散係数)を1Kから300Kの間で数値計算により求めた. 特に(スピン無偏極系では無視することの出来る)電子間相互作用がスピン偏極電子系の輸送係数へ及ぼす影響に着目した. 低温では"Spin Drag"と"Bandgap Renormalization"という形で電子間相互作用の寄与が強く現れるが, 室温域ではその影響は小さくなる. 移動度と拡散係数への影響を比べると, 室温域では移動度はスピン偏極度に依存しなくなるが, 拡散係数にはスピン偏極と電子間相互作用の寄与が残る事が示された.
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