本年度は、これまでの研究で高品質なエピタキシャル膜が作製されたFe-GaAs系の磁気ダイナミクスを詳細に検討するために(1)試料への電流注入(2)磁気緩和の詳細測定(3)磁気光学カー効果測定系の整備を行った。 (1)試料への電流注入:Fe薄膜上にリード線の接合を試みたが、表面に形成されている酸化膜が問題となっている。Auなどによる保護膜をFe上に形成する必要があると考えられる。 (2)磁気緩和の詳細測定:膜厚12nmと6nmのFe薄膜の磁気緩和をQ-band(35GHz)強磁性共鳴により測定し、共鳴スペクトルの印加磁場方向依存を測定した。共鳴線幅より得られる緩和率は、薄膜内の電子スピン緩和を直接反映するintrinsic dampingと、結晶方位の揺らぎ、欠陥および不純物により引き起こされるextrinsic dampingの2つの効果を含む。共鳴線幅の面内磁場方位依存は12nmと6nmの膜ともに一定であり、これは結晶方位の揺らぎ、格子欠陥からの寄与がないことを示している。線幅から求められた緩和定数αは0.003~0.004程度と極めて小さく、MBE法により作製されたFe薄膜、あるいはバルクFeで測定されている最小値0.002に近い値となっている。これは磁気デバイスの量産に使われるRFマグネトロンスパッター法でも磁気緩和の極めて小さいFe薄膜を成膜できることを示している。 (3)磁気光学カー効果測定系:極カーと縦カー効果を極めて高感度に測定することに成功した。ノイズと長時間のドリフトを抑え込んだ結果、カー回転角を0.05分程度の精度で測定できるシステムとなった。。
|