光領域における負屈折率のレンズを実現するため、これまで主に数値計算を用いてそのような媒質中の電磁波の伝搬現象を解析し、原理的な可能性を検討してきた。特に、銀薄膜のスーパーレンズ効果の検証により、負屈折率媒質の解析における数値的な精度、問題点を明らかにし、数値解析の手法を確立した。 これらの結果に基づき、本年度は金属ナノ球に及ぼす赤外光照射の効果と光誘起力の解析を行い、光領域における金属微小粒子中の電子プラズマ振動の電磁気的性質と、それらが光照射された場合に受ける力学的作用を明らかにした。この結果によると、金属ナノ球は赤外領域にプラズマ共鳴の基本振動モードを有し、さらに、その状態においては特定の形状のクラスター(集合体)を生成するような力を受けることが推察される。金属球クラスターの周期配列構造の解析により、それらが負の屈折率を有することを検証し、以上を合わせて考察することにより、光領域の負屈折率媒質を光照射によって生成する可能性があることが示唆された。 このような構造の光媒質を生成する際の問題点は、それらの微細構造が必ずしも規則的な周期構造をとらず、特定の密度領域で分布する不規則配列をとることである。この不規則配列が媒質のマクロな屈折率に及ぼす影響を検討するため、媒質の配列構造を任意に制御できるような2次元伝送線路を用いた等価的な負屈折率媒質を作製し、その構成要素にランダムなゆらぎを導入して実験と解析を行い比較した。その結果、予想される不規則配列は、レンズ状の構造においては悪影響を及ぼさないことが判明した。
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