次世代の高速衛星通信・放送システムの回線品質補償技術の確立を目指し、研究室で蓄積してきた大量の実験データと様々な気象データを用いて気象と電波伝搬の関係を評価するためのシステムを構築し、解析を進めると共に、新キャンパスにおいて引き続き新たな実験データを取得していくための準備を進めた。今年度は以下の成果を得た。(1)これまでに取得してきた降雨強度と受信信号レベルのデータを用いて、電波伝搬に影響を与える降雨の状況について統計的な評価を行った。その結果、一定時間内の降雨のありかたには、弱い雨が長時間降り続く状況や強い雨が短時間に降るといった様々な状況があるため、1時間降水量の値だけで回線品質を評価することは適当ではなく、前後の時間のデータをも組み合わせて、更に高次の統計量も活かした解析が必要であるという結果を得た。(2)回線補償法の検討の1つとして、気象庁が発表している降水予測値を参考にしてマルチビーム衛星放送の回線品質を単純に予測し、劣化が予測されるビームの電力を増力する方法の有効性を評価した。単純な方法ではあるが回線品質を改善できる可能性を得た。ただし、九州や沖縄を指向するビームに対しては電力増幅だけの対応では所望の品質を得ることが困難であった。(3)回線品質補償技術の評価に用いるための衛星回線シミュレータ開発の基礎として、実験で得られた受信信号レベルの時間変化量を用いてビット誤りを模擬する方法を検討した。ビット誤りが発生し始めるあたりの信号変動については実測に近い振る舞いをもつビットエラーを発生できた。(4)Ka帯の衛星通信への影響は降雨だけでなく大気媒質がランダムに変動する影響が大きいことも予想される。理論的な視点から大気がKa帯電波伝搬に及ぼす影響の解析を進め、アンテナの開口が大きくなると大気媒質の揺らぎによる回線品質への影響が無視できないことを示した。
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