次世代の高速衛星通信・放送システムの回線品質補償技術の確立を目指し、昨年度に引き続き、研究室で蓄積してきた大量の実験データと様々な気象データを用いて気象と電波伝搬の関係を評価するための解析を進めた。また次世代衛星通信で用いられるKa帯システムに伝搬路媒質の揺らぎが及ぼす影響を理論的に評価した。今年度は以下の成果を得た。(1)これまで衛星回線の品質を予測するための評価基準として1時間降水量を用いてきたが、1時間内に観測される降雨の状況にはばらつきが大きく、効率的な予測を行うためにはより短い時間で降雨を評価し、回線品質を予測することが必要であることを示した。国内に配置されている気象観測所で観測される短時間降水量の基準が10分間となっていることから、この時間を基準として降雨強度と降水量の関係及び信号減衰の関係を評価したところ、降水量と観測された降雨強度、信号減衰量間のばらつきが小さくなり、精度よい予測につながる可能性を得た。(2)Ka帯の衛星通信へ大気媒質の揺らぎが与える影響を不均質乱流媒質中の多重散乱理論を用いて解析し、評価した。地球から衛星に向けたアップリンク通信時には大気乱流によって引き起こされるビーム波の到来点が揺らぐスポットダンシングと波面の波形が歪む影響により誤り率が増加すること、衛星から地球局に向けたダウンリンク通信時には受信波の空間コヒーレンスの減少が主要因となって誤り率が増加することを数値解析により確認し、大気乱流媒質が与える影響が上り回線と下り回線で異なることを示した。(3)技術試験衛星である超高速インターネット衛星WINDSを用いた通信実験を九州内の福岡、佐賀、鹿児島間で実施し、降雨がKa帯衛星通信に及ぼす影響を観測した。実験中に短時間ではあったが集中的な降雨が観測され、既存のKu帯と比較して大幅な信号減衰が観測され、降雨対策が必要であることを確認した。
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