研究概要 |
本研究は「眠気に抗した覚醒維持状態」における生体の生理反応を定量的に評価、解析すること、ならびに解析法に関する研究を主な目的としている。平成23年度は、視覚刺激パターンが生体に及ぼす影響を明らかにするために、自然映像を用いながら、パン、チルト、ロール、ズームなどの画素の動きを人工的にコントロールした視覚刺激実験を実施した。ここで視覚刺激に用いた映像は自然な映像であり、人工的に作成したコンピュータグラフィックスではない。このような映像を作成するために3軸の映像酔い発生装置なるものを作成し、ビデオカメラをパン、チルト、あるいはロールさせることによって、映像中の画素の動きをコントロールした。上述の装置を用いて作成した映像による視覚刺激実験を行い、その間、脳波、心電位、血圧、規準化脈波容積、ならびに眼球運動を同時記録した。生体生理反応の指標として、今回は心電図から算出した心拍変動を用い、また主観的な映像酔いの評価指標としてよく使われるSSQによる評価も行った。その結果、パン、チルト、ロール映像のうち、最も映像刺激による生理反応が大きく出たのは、パンによるものであった。一つはSSQのスコアが最も高くなること、また心拍変動の周波数解析によって、HF/LF(HF:0.15-0.30Hz,LF:0.05-0.15Hz)を求めたところ、パン映像刺激の時にもっとも、HF/LF値が低くなることがわかった。視覚刺激パターンのうち、パン映像による視覚刺激によってストレスが増大し、交感神経の亢進による、いわゆる映像酔いの状態になっているものと推察される。また、映像の種類を変えて、異なる雰囲気の映像刺激実験も行ったが、両者に大きな違いはなかった。脳波解析を困難にするまばたきや眼球運動によるアーチファクトの混入に対しては、ICAによるアーチファクト除去が有効であることが示唆された。
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