近年、産業界では薄膜を使った製品が数多く造られ、特に透明電極であるITO(酸化インジウムスズ)膜は液晶パネルや有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイ用の電極などとして使用されており、現在の産業界にはなくてはならないものとなっている。しかし、透明電極はその光学特性や電気特性についてはかなり把握されている一方、その熱特性についてはほとんど調べられていないように思われる。 本研究では、申請者がこれまでに開発してきた光音響顕微鏡システムを改良した新規な“熱波顕微鏡システム"を提案し、透明電極の熱物性の簡単な評価法を開発することを目的とする。 まず、透明電極内に熱源を形成する方法として(1)バッキング材を利用する方法と(2)表面プラズモンを利用する方法の2通りを考える。各々の方法で生ずる熱波の理論解析を行った。さらに、これまでに提案してきた高分子膜の熱物性評価理論を見直し、透明電極薄膜に適用できるように検討した。具体的には透明電極の熱拡散率推定方法を理論的に検討し、透明電極の熱波インピーダンスと基板の熱波インピーダンスとのミスマッチングによる測定誤差、透明電極の熱拡散率を正確に推定するための熱拡散距離との関係などについて明らかにした。すなわち透明電極の熱拡散長を透明電極の厚みの1.2倍以上になるようなレーザ光の変調周波数を使うことでより精度のよい測定ができることを明らかにした。また、透明電極の熱拡散率を推定する場合、光音響信号振幅よりもその位相情報を使う方が正確に推定できることも理論的に明らかにした。
|