近年、産業界では薄膜を使った製品が数多く造られ、特に透明電極であるITO(酸化インジウムスズ)膜は液晶パネルや有機ELパネルなどのフラットパネルディスプレイ用の電極などとして使用されており、現在の産業界にはなくてはならないものとなっている。しかし、透明電極はその光学特性や電気特性についてはかなり把握されている一方、その熱特性についてはほとんど調べられていないように思われる。 本研究では、申請者がこれまでに開発してきた光音響顕微鏡システムを改良した新規な"熱波顕微鏡システム"を提案し、透明電極の熱物性の簡単な評価法を開発することを目的とする。 まず、透明電極の熱拡散率を推定する前段階として、比較的入手しやすく、その物性値が明らかとなっている高分子透明膜を使って、本研究で提案した透明膜の熱拡散率推定法が実際の測定に使えるかどうかを確かめた。透明膜内に熱源を形成する方法としてパッキング材(黒鉛)を利用する方法"レーザ誘起黒鉛熱源法"を使って、高分子透明膜の熱拡散率の推定を行った。高分子透明膜としてPETシート、ポリイミド、PVDF膜を準備し、それぞれの熱拡散率の推定を行った。その結果、PETシートおよびポリイミドはメーカー公表値とかなり良い一致を示し、提案した方法が使えそうであることが明らかとなった。しかし、PVDF膜についてはメーカー公表値の55%程度の値となり、測定方法の問題であるのか、膜自体の問題であるのかを解明するまでには至らなかった。今後、検討していく必要がある。
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