土木計画学における空間計量経済モデルの実用化の促進を最終的な目的として、空間計量経済学における最新動向についての情報収集を行って研究の方向性を再確認しながら、昨年度に続き、空間計量経済学における最新動向に関する情報収集を行った。 次に、社会資本整備や環境質の便益評価に空間ヘドニック・アプローチを適用することに関し、空間計量経済学と地球統計学の両方の学問分野を俯瞰するとともに、実際のデータを用いた実証的考察を行うことでその課題を明らかにした。理論面では空間計量経済学の限界を明らかにし、その前提である離散的な観測地点配置と整合的な便益算出の手順が必要であることを示した。実証面では、空間ヘドニック・アプローチを用いることによって、便益の評価額に政策分析上無視できない程度の相違が生じる可能性を示し、これらの成果を学術雑誌に公表した。 さらに、空間効果(空間的自己相関・不均一分散)の多面的な実証分析を通じて実務的な示唆を得るため、昨年度実施した東京都市圏全域を対象とした住宅公示地価と地理情報データをもとにした分析に続き、今年度は中部都市圏・近畿都市圏の同様のデータを整備し、データの特性や地理的構造・都市構造などの空間的特性、用いられている推定手法と結果の概要、推定の手間などの面での比較検討を行った。 一方、本研究を進める中で新たな方向性として展開が見えてきた、市町村合併によるデータ数減少への対処法についての空間計量経済学の活用に関する研究も継続した。実際のデータを用いた実証分析を行うともに、より一般的な「面補間」(集計データを異なる集計単位に変換する方法論)への空間計量経済学の応用として方法論をまとめ、学術雑誌にその成果を公表した。 さらに、我が国の所得格差分析へ空間計量経済学モデルを適用するとともに、その計算過程における課題について実用化の観点から考察し、学術雑誌に成果を公表した。
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