前年度までの成果として、等価線形化と線形応答スペクトル低減化に基づき、スリップ型復元力特性をもつ構造に粘弾性要素を付加した場合の地震応答予測法および簡易な制振設計法も提案した。すなわち、スリップ型主架構と粘弾性要素からなる一質点構造を、スリップ要素と粘性要素の並列する一質点系を考え、応答のランダム性やスリップ型復元力の複雑な履歴特性を考慮し、塑性化によるシステムの固有周期や減衰定数の変化を定式化した。これに基づき、この一質点系の地震最大応答予測法を提案した。本研究で示した等価線形化理論をもとに、各スペクトル一定領域での、簡易応答予測法を導出した。一方、前年度までは粘弾性要素として線形モデルを用いていたが、今後の展望として、提案した手法の適用範囲をより広めるために、非線形粘弾性モデルでも検討を行う必要があった。 そこで、温度・振動数依存性とともに振幅依存性、すなわち非線形性をもつイソブチレン・スチレン系粘弾性体によるダンパーを用いた制振構造を対象に、等価線形化の手法に基づいて、ダンパー量を合理的に決定できる制振設計手法を示した。非線形粘弾性ダンパーは、目標層間変形での定常状態を想定した場合に、貯蔵剛性、損失係数が等しい線形粘弾性ダンパー(Kelvin要素)に置換される。また、一般的な設計手法では試行錯誤的にダンパー量を決めていくのに対して、本設計手法は、応答低減効果を表現した性能曲線に基づいて、目標性能を満たすダンパーと主架構の剛性バランスをまず一質点系で決め、それを多質点系に展開する点が異なる。これに先立ってイソブチレン・スチレン系粘弾性ダンパーをKelvin要素に置換する妥当性について、ダンパー特性をパラメトリックに変化させた一質点系モデルの解析により検証したほか、その振幅依存性が周期や減衰に及ぼす影響についても考察した。
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